ある日の話

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うわ、やばい。 緊張してきたぞ… 祐未はそっと頭を抱えて、ゆっくりと机に伏した… 「愛海」 ここは1LDKの小さなアパートの一室。 カーテンを閉めていても午後の日差しが隙間からうっすらと漏れるこの狭いリビングに、愛海と二歳になったばかりの赤ん坊が横たわっている。 「愛海」 「…ん?リュウ君?」 「ただいま。いま休憩だから帰ってきた」 「おかえり。何か飲む?」 「いいよ、自分でやれるから」 油で薄汚れたタオルを首に巻き、身体中を汗で光らせた笹岡はちっとも疲れた様子を見せないで台所へ向かった。 男は背中で語るというけど、ほんとだなあ… 高校時代は筋肉なんてほとんどなくて薄くて細長かった体型だったのに、いつの間にかガタイよくなっちゃって。 それでも細いところが余計に艶めかしくて、結婚して二年経った今でも愛海はときめきを覚えずにはいられなかった。 自分の横ですやすやと眠る愛娘の頭を撫でて、愛海は立ち上がった。 「今日の現場はこの近くなんだっけ?」 「そうそう。駅前の団地の解体」 そう言って麦茶をコップに注いで勢いよく喉に流し込んだ。 「大変だね、頑張ってね」 「おう。愛奈のためにもな」 笹岡が愛しそうに目を細めて、タオルケットを胸まで被って安眠している娘を見つめた。
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