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「えと…あそこへは道に迷ったら辿り着いて…」
なんてヘタな嘘。きっとおばあさんは嘘だってわかってるだろうな…
「そう…それならいいけど…けれどあの井戸にはもう行っちゃダメよ」
「え…?」
おばあさんが急に険しい顔つきになってそう言ったので、私は思わず聞き返してしまった。
「な、なんでですか?」
「あの井戸には恐ろしい言い伝えがあるのよ。」
おばあさんがそう言ったとき、私は背中に誰かがいるような気配を感じた。
「…?」
振り向いてみたけれど、そこには今さっき自分が居間に入るときに通った扉があるだけだった。
「美菜ちゃん?」
(気のせいかな…?)
「あ、ごめんなさい、なんでもないです。で、えっと…恐ろしい言い伝え…?」私はおばあさんに変に思われないよう、すぐに話題を戻した。
「ええ。」
「恐ろしいって…死んでしまった人が大切にしてたものを投げ込むと、死んだ人が生き返るって言う言い伝えが…?それのどこが恐ろ…」
「恐ろしい化け物になるのよ」
おばあさんは私の言葉を遮った。
「え…?」
思ってもみないおばあさんの言葉に、私は耳を疑った。
「言い伝えは本当よ。でも生き返るのは一週間だけ。一週間たったら、生き返らせられた人は、我を失った殺戮と破壊のみを求める化け物となるの。だからたとえ生き返らせても、再び失うことになり、再び悲しみを味わうことになる。」
(そ…そんな…)
私は言葉も出なかった。
「人の死を人が操ってはならない。まして二度目は、愛する者を化け物にしないためには、自らの手で殺めなければならない。だからあの井戸はけして使ってはならない。昔からそう伝えられてきたのよ…」
(そんな…そんな…)
その日、私は何をしててもそのことばかり考えて。
物事が全然手につかない。
(大翔が化け物になってしまうなんて…っ、絶対やだ!でも…)
夜も、大翔が化け物になってしまう悪夢を何度も見る。その度私は飛び起きて考えた。
(確かに大翔は言い伝え通りに生き返った…。だとしたら、私が殺さなければ言い伝え通り大翔は―…)
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