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『ほら見てっ!あそこにあるでしょ??』
小さな、おそらく四歳か五歳くらいの女の子と男の子が、ある村はずれの路地にいる。
『あー…あれか。なんかでもブキミな感じしねぇ?リングのサダコみたいなのでも出てきそーな…』
『もう!そんなんじゃないって!』
すぐにお化けの話につなげてしまう男の子に対して、女の子は頬を膨らます。
けれどすぐに笑顔に戻って。
『ねぇねぇ大翔(ひろと)、知ってる?』
『なにを?』
男の子は、女の子の主語のない言葉に少し困惑した様子で答える。
『あの井戸にまつわる言い伝えだよ!』
二人は路地にある井戸を見にきていた。きっかけは単純。女の子が村の言い伝えを聞いて、井戸を見てみたいと男の子に頼んだからだ。
その井戸に屋根はなく、うっそうとした雑草の中にこじんまりとあった。
『あー…なんかばあちゃんから聞いたような聞いてないような…』
男の子のあやふやな答えに、女の子は少しがっかりしてしまう。
『もう大翔ってばぁ…。あのね、あの井戸の言い伝えっていうのはね…』
女の子は視線を男の子から井戸に移す。
『死んでしまったひとが大切にしてたものを、あの井戸の中に投げ込むと、死んだ人を生き返らせることができるんだって!』
『へぇ…』
男の子も視線を井戸に向ける。
『ステキな言い伝えだよね…』
『そうだな。』
二人の小さな子供は、その日、長い間井戸を見つめていた。
それは、二人の幼きある日のできごとだった。
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