ティファニーで装飾を

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 29歳。未だ童貞だ。けれども、生まれてこの方、努力をしなかったわけではない。  今の自分の様相はバスタオル1枚を腰に巻き、右手にはビールだ。この歳でも腹は出てない。腹筋には自信がある。  立て鏡に自分の体を写し、ポーズをとる。少し恥ずかしくなってすぐやめた。  そう。努力をしなかったわけではない。  数年前まで私はアキバ系だった。服は適当にダイエーやしまむらですませ、これでいいと思っていた。そして、余った金はすべてアニメやフィギュア、好きな音楽に化けた。  部屋中にはアニメのDVDやフィギュア、好きな音楽のCDで溢れ、それで私の生活は満足しているはずだった。満足しているそんなある日、私を全否定させる映画とドラマがはじまったのだ。  それは「電車男」だった。  あるオタク男が、酔っ払いに絡まれている女性を助け、それから徐々に交流が始まり、オタク男もその女性に合わせるようオシャレする努力をし、オタクをしながらめでたく2人は結ばれる。確かそんな話だった。  あの映画、ドラマ以降、オタクの街と呼ばれる場所には、今まで私みたいな服装をした人々が急に少なくなった。私の目には、あの街の風景に映る人々がおしゃれに見えた。 それ以来私は、オタクの街にいかなくなったと同時に、焦りが生まれた。 「オシャレにならなければ……!」  今思えば極論だったが、あのときの私はその判断しかできなかった。  そのときまだ私は22歳だった。
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