29歳。童貞です。

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「そういやさ、こいつの映画のタイトルってなんだっけ?」  どこからともなくそんな言葉が飛んできた。 「えーそれってやっぱり」  そして、ひと呼吸おいて一斉に言った。 「チェリーとチョコレート膀胱!!」 「ジェルの代わりにチョコレート!」  店内は笑いで爆発した。私はもういたたまれなくなって、おかわりしたビールを半分残して席を立った。 「えーもう帰るの? 一緒に飲もうぜ」  しつこく絡んでくる寺井を振り払い精算を済ませた。 「なんだよ態度わりぃな。だから童貞なんだよ!」 「チンコにチョコレート塗ってオナってろ!」  そんな罵倒を背に私は何も言わず店を後にした。  空を見上げれば、さっきまで綺麗だった空が、曇りはじめていて月すら見えなかった。  それから私は自宅に向けて歩みを進めた。気分は最悪だった。 「最悪な1日だ」  自宅まで後半分という距離で大雨が降り出した。傘もない。そして彼女もいない。いや、それは関係ない。でも、事実だ。  チクショウ……。  あの時の笑い声と罵倒がよみがえる。 「童貞で何が悪いんだー! くそったれ!」  その声は列車の通る音にかき消された。  童貞で何が悪い……。  堂浦良昭。29歳。  未だ童貞である。
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