42人が本棚に入れています
本棚に追加
「そういやさ、こいつの映画のタイトルってなんだっけ?」
どこからともなくそんな言葉が飛んできた。
「えーそれってやっぱり」
そして、ひと呼吸おいて一斉に言った。
「チェリーとチョコレート膀胱!!」
「ジェルの代わりにチョコレート!」
店内は笑いで爆発した。私はもういたたまれなくなって、おかわりしたビールを半分残して席を立った。
「えーもう帰るの? 一緒に飲もうぜ」
しつこく絡んでくる寺井を振り払い精算を済ませた。
「なんだよ態度わりぃな。だから童貞なんだよ!」
「チンコにチョコレート塗ってオナってろ!」
そんな罵倒を背に私は何も言わず店を後にした。
空を見上げれば、さっきまで綺麗だった空が、曇りはじめていて月すら見えなかった。
それから私は自宅に向けて歩みを進めた。気分は最悪だった。
「最悪な1日だ」
自宅まで後半分という距離で大雨が降り出した。傘もない。そして彼女もいない。いや、それは関係ない。でも、事実だ。
チクショウ……。
あの時の笑い声と罵倒がよみがえる。
「童貞で何が悪いんだー! くそったれ!」
その声は列車の通る音にかき消された。
童貞で何が悪い……。
堂浦良昭。29歳。
未だ童貞である。
最初のコメントを投稿しよう!