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「ねぇ、聞いた? 二組の桐崎っていう女子のこと」
ふとそこで、数人の女子達の会話が聞こえてきた。黒木は意に介する事なく、準備を進める。
「知ってる! 顔に痣がいっぱいある奴でしょ? キモいよねー」
黒木が聞いた内容は、そこまでだった。
何故なら、苛々して教室からそそくさと出ていったからだ。彼は人の陰口を嫌う。
(今日は落ちこぼれ部長に、誰かさんの陰口、か)
帰り道を、黒木はただ突っ立ているだけなのに進んでいた。
これも水と風を利用した魔法の一つである。
やがて帰宅すると、黒木は慣れた足取りで二階へと進んだ。着替えを済ませて、一階のリビングに向かう。
ベージュ色のソファーに腰掛けたところで、彼はようやく一息ついた。
そして一言。
「屑ばっかだ……」
右も左も、前も後ろも、上も下も、自分を満足させるようなものは何一つない。
悶々とした日々。それが黒木の置かれている状況だった。
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