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――カチャン。
真鍮製の惑星軌道の模型。それを繊細な指がなぞる。冷たい輝きは一体何の象徴か。フードの奥の翡翠の目が、それを見ている。睨んでいるように見えるのは、単に目が悪いだけ。
大樹の洞の家。左右の壁は全て本棚で、全て埋まっていて広い筈なのに狭苦しい。後ろは扉。置いてあるのは簡素なテーブル、食器一式、杖など、本以外は最低限。前は巨大な窓だ。向こう側から暴風の音が聞こえて、家の中にいても恐ろしさを感じる。深呼吸を一つ落とす。
「……星を、読みましょうか」
誰もこんな山奥にはやってこない。星を読むことで金をもらったりもしない。だから仕事ではない。ただの趣味だ。生活は楽ではないが、自給自足が基本である上、それ以上に人が嫌いだ。
祝詞を唱える。普通の人にとっては意味もわからない難解な文章だ。模型が動き出す。
カチッ…カチカチカチ。
動いていく。あるいは回っていく。命が。
「?」
さっぱりわからない、読めない配置だった。今までこんなことはなかった。首を捻る。なんだか胸騒ぎがした。
――大事なことほど、星はなにも語らない。
母の教えを思い出し、今度はため息を一つ落とした。
「――誰かいるか!」
その瞬間暴風雨に混ざって、扉から叫び声が聞こえてきた。はっと目をやり、決心。
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