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ローブをたくし上げ、小走りに扉に駆け寄る。
「――助けてくれないか!」
扉を開けると、そんな叫びが彼女を迎えた。切羽詰った響きと、人を前にした緊張で声が上擦る。
「どうなさいました!?」
「怪物から逃げてきた。そうしたら迷ってしまって……一応逃げ切ったが、仲間が怪我をしている」
青年は焦っている様子だが説明は実に落ち着いていた。さっと頷く。
「構いませんよ。どうぞこちらへ。治療を!」
「有難い」
困っていたら助けなさいと母に言われた。人が嫌いであることは、助けない理由にはならない。彼が仲間らしい男を担いで来て寝かせる。すぐに杖を取って診る。外傷は軽い。
「あなたもお座り下さい。大変でしたでしょう」
「ああ、とても……ここに強い怪物は出ないと聞いていたからな。油断もしていなかったつもりだが」
他人の体に干渉するのは相当負担がかかるので、小耳に挟む程度に聞いていたのだが、あれ、と彼女は治療をしながら思う。この森には弱い怪物しか出ない。青年の口振りからすると、強い怪物が出たようではないか、と。
そこで初めて青年をじっくり見た。上品でタイトな変わった衣服に、要所要所の防具。やや大きめの剣を腰に帯びている。紫紺の瞳は高貴で、目を閉じた風貌は、さながら革表紙の本のような静けさがある。明るい銀髪は星の滝のようだ。滝というにはやや長さは足りないかもしれないが。
「……何が、出ました」
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