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中から男の声。失礼します、と女性はドアを開け、二人を通す。ミーレはここでもメノラを先に行かせた。
中はほとんど書斎。右は本棚で、左も本棚。優男が視線の先に座っている。美形という意味ではミーレと同じだが、こちらの方が断然柔らかい印象だ。服装も上品で、貴族のイメージにぴったりである。
「君がミーレか。噂は聞いているよ。腕が立つらしいね、若いのに」
「恐縮です。こちらは同行者のメノラです」
メノラが雇い主だということは一応伏せておく。わざわざ名指しで頼んできたとなれば、重要な荷物なのだろう。政治家のそんな荷物で二重契約となると拒否されたりすることもあるのだ。それは避けたい。
――前は、二重契約など有り得なかったが。
こうしても問題ないということがなんとなくわかる。メノラは聡くも口を鎖しており、ルーベンスも声を上げることはない。あくまでミーレ(とメノラ)の仕事であるから、口出しをする必要もないのである。
「早速だが仕事の話に入らせてもらうよ。大切な荷物で、時間もない。今はもう夕方だから、出発は翌朝で構わない。このゾーヤにも護衛を頼むつもりだが、どうにも不安でね。それをゼーランまで運んでもらいたい」
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