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宿屋の二階の端の部屋。安物の扉の隙間からランプの光が漏れる。
「ねえ、ミーレ。笑うようになったね」
「そういえば、そうかな」
ミーレは器用に片眉を上げた。隣のベッドではメノラが眠っている。驚くべき寝つきのよさで、入るや否や眠った、に近かった。その原因だろう子供に目線を投げる。
「笑う、ってのは語弊があるかな? ここ二日三日で、表情が解れたよ」
「目標を達成しつつあるから、だな。恐らく」
音を立てず紅茶を啜る。故郷では上物しか飲まなかったが、十年は優に立つ今、これはこれでと思えるようになった。ルーベンスはミーレが紅茶を飲み込むまで発言を控える。
「目標を見つけるのが目標、ってなんかトンチみたいだよね」
相変わらず一言多い。最初は腹が立つこともあったが、と紅茶を揺らした。
「至って真面目なんだが。なんだか、長期化しそうだしな。メノラの方は」
「大丈夫、乗り越えられるよ!」
かちち、と天体模型が動く。
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