ロマンチシズム

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鳥の鳴き声が聞こえるのどかな朝だ。名産の生ハムを使ったミックスサンドイッチが非常に美味である。街の門の前までまだ薄暗い道を行くと、一つの馬車があった。馬の毛を丁寧にブラッシングしているミドルドレスの女性が足音に気付いてこちらを振り向いた。言わずもがな昨晩のゾーヤである。槍は馬車に立てかけてある。これが馬ですか、大きいですねとメノラが感嘆する。 「あ、おはよう! 昨日はよく眠れた? 聞いてたと思うけど、ゾーヤよ。よろしくね!」 「おはよう。こちらこそ、よろしく頼む」 「ゾーヤさん、口調が……!」 てっきり敬語で通すのだと思っていたメノラは口に手を当てた。 「ずっとあの口調で話すのも堅苦しいからねー。傭兵さんとかもみんなこんな感じで切り替えて話すわよ」 確かにずっとあれというのも嫌だ。なにか異常があったとき、のんびり敬語で喋るというわけにもいかないか、と呑みこむ。 「遅れましたけど、メノラです。よろしくお願いします」 「うん、よろしく」 口調でもっと堅苦しい印象を抱いたのだが、ゾーヤは実によく笑うざっくばらんな女性だった。恐らくこちらが本来の姿なのだろう。 「さあ、概要を確認するわ。業務内容は積荷を配達。目標日数三日。街道を西へ行って、途中そこからそれて近道する。二日でソリア入り。一日で街道を飛ばしてゼーランへ行く。ここまでで質問は?」
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