ロマンチシズム

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見せ付けるように槍を持った。大丈夫そうだな、と安心してミーレも頷く。そこに御者が寄ってきて、会釈してから報告する。 「ゾーヤ様。そろそろ明るくなります。出発しましょう」 「短い間ですが、よろしくお願いします」 メノラは御者にも挨拶した。頑張りましょうと笑顔を返される。ミーレとゾーヤが幌の中に入り、メノラは荷台に腰をかけ、三日を予定とする道のりが始まった。 街道を走っているため、揺れは意外と少なく、それよりも後ろ向きに流れている景色が面白い。そこにふとゾーヤが隣に座ってきた。 「ね、さっきの話の続きするけど、いい?」 「ゾーヤ、お前夜もあるんだぞ?」 メノラは喜んでと促すが、睡眠不足による不注意を心配するミーレの声は幌の中から聞こえてきた。 「もう、生真面目ねえ。モテないわよ?」 絶句する気配がする。あまりにも想定外だったのだろう。ミーレを黙らせてゾーヤは満足し、にっこりメノラに笑いかけた。ぺし、となにかを叩く音と、もういい寝る、という独り言が幌の中から聞こえた。メノラもくすくすと笑みを溢す。 「旅券、の話だったわね。大陸が三つの国にまとまってからも、覇権を争って、何度も何度も戦争をしてきたわ」
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