ロマンチシズム

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どうやら歴史の話から始まるらしい。メノラは耳を傾けた。 「あるときの戦争を境に、もうやめようってことになったの。その戦争はチェルニとドゥリエールだった。言い出したのは勝って、ルイリエを分捕ったドゥリエールだった。あたしたちチェルニの人間は当然反抗しようとしたの。でもね、」 目をすがめ、まるで自分のことのように語るゾーヤ・デリャンスキ。両方チェルニ系の名前だった。 「ドゥリエールはチェルニ人の雇用をやめるって言い出したの。チェルニの気候、わかるかしら?」 「寒冷で、食べ物が出来にくく、人が住むにはあまり適さない……あ」 そこまで言って、当時のドゥリエールの意図に気付いた。 「そうよ、ほとんど脅しね。食べ物がないからチェルニに外貨を稼ぐ手段は労働力の提供しかない。人が多いのはドゥリエールで、ソリアは労働力が足りてる。仕方なくチェルニは屈した。あのときのスタニスラフ帝のお顔、一生忘れないわ」 お泣きだったそうよ、と呟くように続けた。スタニスラフ帝は現皇帝の名だ。メノラはひどい、と黙って、快活そうなゾーヤの横顔を見つめていた。 「酷くなんかないわ。それが外交なのよ。――以降はまあ、見ての通りね。十五年前三国同盟を締結して言語と通貨を統一、国境もないも同然よ。三国の中で食糧や政局が安定しているドゥリエールが経済を引っ張っているわ」 ゾーヤは苦笑して肩をすくめた。首元で朝日にチェルニの銀貨が光っている。
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