ロマンチシズム

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夜。御者が簡素な毛布に包まって幌の中で眠っている。御者の代役はゾーヤである。乗りなれないメノラは早速腰が痛くなって、外套を敷いてその上に座っている。ミーレが教えたのだが、彼の言う通りないよりは幾分かマシだった。引火は避けなければならないので、光の魔法玉に力をこめて出力し、それに布をかけて簡易ランプとしている。一晩もつかは正直微妙なところであるが、戦闘が起きれば明かりをつけざるを得なくなるし、通常ならこれで十分だろう。ミーレにもその旨を確認すると、短い肯定が返ってきた。メノラとしてはそろそろ眠ろうかという頃合である。 ミーレの様子は想像出来る。生真面目に頑なに、ルーベンスを片腕で抱え、片膝でも立てて座っているだろう。そして星ごと夜を食する紫の目は、静かに風景を眺めているのだ。恐らくは。 「魔族ってね。人間の成れの果てなんだよ」 脈絡なくルーベンスが言うのが涼しい夜風に乗って流れてきた。本を読み漁ったメノラでも知らない事柄に好奇心をつつかれ、一気に覚醒する。 「え、そうなのですか。ミーレさん?」 「いや、メノラにわからないなら、俺にもわからない」
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