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結局――
「……申し訳ありません」
「貴方のせいではない」
同僚の傭兵だというその男は亡くなってしまった。青年の治療、傭兵の埋葬、軽い黙祷は済んだ。謝罪の言葉を即座に打ち消される。彼は、きっと無理に戦おうとした俺が悪かったのだ、と続けた。
「ですが」
「俺が悪かったのだ。だから謝るな」
はい、と蚊の鳴くような声で答えた。ただ項垂れる。
「たくさんの本で知識を身につけ、それで世界を知った気になっていました」
と自然と口から言葉が出た。所詮は木の中に棲むインセクト。初めて外を見て、その大きさに慄いているのだ。人の死を目の前で見て、自分は救えずに見ていただけなのだ。彼はそんな彼女をただ見ている。
「ねー! 君、魔法使えたよね?」
突如響いた声に驚いて、彼女は青年を見る。明らかに彼の声ではなかった。しかし自分と彼以外の姿はどこにもない。だが彼はと言えば、
「声を出すなと言っただろう!」
件の少年のような声を叱りつけていた。
「いーじゃんこのお嬢さん、悪い人じゃないよ? オレ売り飛ばしたりどっかにわざと忘れてきたりしないよ? それに減るもんじゃなし」
「俺の体力がもれなく減る」
「オレがなんでこんなことするかって? それは君が名乗らないからだよ、ミーレ」
そういえば、と彼女は名前を聞いていなかったことを思い出す。青年ははっと気付いた顔になる。
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