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御神の顔に、眉尻を下げた情けない苦笑が浮かぶ。
「自分で言うのもなんですが、見ての通り我が探偵事務所は個人営業で、非常に小さい。
人捜しなら大手の方が、しっかりしてます」
山本はしばらく考えた後、「実は……」と顔を俯け、切り出した。
「娘が付き合っていた男というのがですね……その、なんというか。
『薬』をしているらしくてですね、娘も度々私に相談を……」
山本は顔を上げ、すがるような眼差しを御神に向ける。
「別れるようには言ったんです!」
山本の迫力に気圧され、御神の頬を汗が伝う。
「つまり、娘がもし犯罪に関わったりしていたらアレだから、あまり大事にはしたく無いと?」
山本は静かに頷き、御神は静かに溜め息をつく。
「山本さんがかわいそう!」
涼子の一言で全てが決まった。
とりあえず話せる範囲で事情を聞き終える頃には、すっかり日も暮れており、本格的に行動するのは翌日からとなり、山本は帰って行った。
「あー! めんどくさい事になっちゃったよ、リョーコちゃん。
家庭のトラブルは扱わない主義なのにさぁ」
御神はすっかり頭を抱えてしまう。勤勉が美徳だったのは、自分が生まれるよりも遥かに昔の話だと、御神は信じていたからだ。
「前金もいただいたんですから、キッチリ働いて下さいね」
前金は漏れなく、涼子と書いて大家と読む財布へと食べられてしまい、御神は更に頭を抱えた。
「ベスパのガソリン代は……」
眉尻を下げ、本日二度目の苦笑いをした御神だが。
「そんな無駄な予算は有りません」と一蹴され、半泣きでほとんど手をつけられていないポテトチップスをくわえた。
「それ給料から引いておきますから」
「なっ!」と吹き出した時にはもう遅く、数円分の価値は有るかもしれないポテトチップスは、床に落ちて粉々に砕け散った。
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