序章

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  ぐへぇ~~……、だりぃい~~……。 実際にはそんな声は出ていないが、聞こえてもおかしくなかった。 すでに意識はないのか。 それとも、そんなキャラではないからか。 白良龍馬は見るものすべてからやる気を奪うかのように、脱力して机に突っ伏していた。 しかし、彼の周辺はそうなってはいない。 むしろ、この教室は活気に満ち溢れていると言ってもいい。 男子はまるで子供のように騒ぎ、女子は携帯を開いて談笑している。 特に男子のはしゃぎっぷりは目立ち、果てには紙で作ったボールで野球をし始める始末。 その理由として、まず先生がいないからだ。 とっくにHRの時間になっているのに、まだ教室には来ていない。 そしてもう一つ、3月初めに行われた期末テストが終わったからである。 一・二学期とは違い、三学期の成績が一発で決まるこのテストから解放されたことは理由として大きい。 提出物も半端ではなかったゆえ、早めにそれを終わらせなければマトモなテスト勉強もできないという、かなりハードな1週間。 それも今では3日前のことで、とっくにテスト返しもすみ、あと1週間で待ちに待った春休みだ。 それに胸を弾ませるクラスメイト、はしゃぐのも当然だった。 しかし、ならばどうして白良龍馬は1人だけ倦怠感に沈んでいるのか。 教師「あ~、遅れてすまん。HR始めるから、座ってくれ」 担任教師がやっと教室に入ってきて、大半のクラスメイトが着席した。 しかし、紙ボール野球をしていた一部の男子は不満げに抗議する。 生徒「もうちょっと待ってな。今ツーアウト満塁の勝負時だから」 教師「何をわけのわからんことを言ってるんだ。あのな、紙ボールで野球するときは俺も誘えって言っただろう」 生徒「だって、先生のスイングで窓割れたし」 教師「1m定規だったからだ。30cmなら、割れなかった」 そう言ってケラケラ笑うその高校教師は、長身、眼鏡、ちょっといい顔の原村夏吉(ハラムラ ナツキチ)先生。 30歳いっていない、若い教師である。 普通は、危ないからやめなさい、など言って止めるべき教室内野球に、自分も参加しようとするトンデモ教師である。 だが、それゆえに本人は怒ることなど滅多にないし、比較的クラスは自由なので文句を言う生徒は1人としておらず、むしろ男女問わずにに人気がある。  
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