死刑を望んだ男

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日差しが暖かな、小春日和の昼下がり。 久し振りに非番となった橋爪は、澪やポチと一緒に河原を散歩していた。 いや、もはや散歩と言うべきか否か。 珍しく元気なポチは我先にと綱を引っ張り、ご機嫌な澪は手を握ったまま離してくれない。 間に挟まれた橋爪は、たまったもんじゃ無かった。 「かの有名な大岡越前は、先に手を離した方が本当の母親だと決めたそうだ」 「え? 何か言った?」 「ああ、実に平和だな、とな」 「?」 何か違う。そんな気はしたのだろうが、まあどうでも良いと判断されたようだ。 橋爪にとって羞恥プレイにも等しい現状だが、平日という事もあり人はまばら。 それに何と無く呟いた事ではあったが、今この時は本当に平和である。 澄み渡る青空は、煌めく川面は、殺伐とした現代に生きている事を忘れさせてくれる。 だが、どこかで今まさに犯罪が起きており、どこかで人が死んでいると考えてしまうのは、やはり刑事の性か。 「・・・ふん、たまには、良いか」 「ん? え!?」 澪が驚いたのも無理は無い。あの橋爪が、自分の意思で澪の手を握り返したのだ。 その行動に、澪の涙腺が緩んでいく。 随分と積極的な橋爪だったが、しかし、痛かったと謝ってしまう辺りはまだまだである。 それはさておき、もはや気分絶頂となった澪にも急かされながらの楽しい散歩は暫く続けられた。 ただ、それに終りを告げたのは時間では無く携帯の着信音であった。 一気にテンションだだ下がりのポチと澪から逃げるよう背を向け、ちょっと恨みを込めながら通話ボタンを押す。 「はい、橋爪」 「非番のところ済まんね」 「全くよ!」 「うひ!?」 橋爪と五十嵐が奇妙な悲鳴を上げる。 どうやら澪が聞き耳を立てているらしい。 追っ払いたかったが、そんな事をしたら甚大な被害が橋爪に来る。 取り敢えず静かにしろと告げて通話に戻った。 「あー、澪ちゃんとデート中か。かけ直すよ」 「用事があるから電話したんだろ。今更、気を使うなよ」 「ほー」 「何だよ」 「デートは否定しないんだな」 ぬぅと唸る間もなく、電話口から黄色い声が響いてきた。 「・・・後ろに華恋さんが居るな?」 「ああ、済まん」
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