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鼻をぐすぐすいわせながら、エステルは花粉症の薬を飲み込んだ。更に目薬をし、花粉に効くと言われるお茶も飲んだ。
「はぁ……。花粉症は辛いです」
「みたいだな」
真剣に悩むエステルに、ユーリが素っ気なく声をかけた。
「他人事みたいに言わないでください」
「他人事だろ?」
「そうですけど……」
「ユーリさん、お願いします」
「おう。じゃ、何回NG出したか教えてくれよ」
「ユーリ!!」
駆け足で撮影現場に戻っていくユーリに、エステルが怒鳴った。
「もぅ……」
「エステルさん、大丈夫ですか?」
「あ、はい。我慢します」
エステルも駆け足で撮影位置に向かう。今の所は大丈夫そうだ。
「テイク4……アクション!」
今回は一連の動きを最後まで出来た。
「ハイカットー。もう1回行きまーす」
「え?ダメでした?」
「くしゃみ我慢してて顔が固いよー」
「ごめんなさ――クシュン!」
この時スタッフは、更に時間がかかることを覚悟しただろう。
「テイク5……アクション!」
エステルがすっと立ち上がり、歩き出した瞬間、カメラスタッフが噴き出した。
「カット!なにやってんの!」
監督の厳しい声が、カメラスタッフに飛んだ。
「すみません。あの……エステルさん、鼻水が……」
「えぇ!?」
スタッフがティッシュ箱片手に駆け寄り、慌てて鼻をかむエステル。
「本当にごめんなさい……」
「次1回で終わるように気合い入れようか」
「ハイ!」
「ハイ行きます。テイク6……アクション!」
今回は動きもしっかり動いている。くしゃみもない。表情も自然。鼻水も出ていない。
「はいカット!OKだよ」
「ありがとうございます」
エステルは深々と頭を下げ、急いでティッシュ箱へ向かった。鼻をかみ、椅子に座りボーッとしていたエステルだが、頭の中でハルルの撮影を考えると、今にもくしゃみが出そうだった。
END
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