TOV OP撮影

3/3
前へ
/22ページ
次へ
鼻をぐすぐすいわせながら、エステルは花粉症の薬を飲み込んだ。更に目薬をし、花粉に効くと言われるお茶も飲んだ。 「はぁ……。花粉症は辛いです」 「みたいだな」 真剣に悩むエステルに、ユーリが素っ気なく声をかけた。 「他人事みたいに言わないでください」 「他人事だろ?」 「そうですけど……」 「ユーリさん、お願いします」 「おう。じゃ、何回NG出したか教えてくれよ」 「ユーリ!!」 駆け足で撮影現場に戻っていくユーリに、エステルが怒鳴った。 「もぅ……」 「エステルさん、大丈夫ですか?」 「あ、はい。我慢します」 エステルも駆け足で撮影位置に向かう。今の所は大丈夫そうだ。 「テイク4……アクション!」 今回は一連の動きを最後まで出来た。 「ハイカットー。もう1回行きまーす」 「え?ダメでした?」 「くしゃみ我慢してて顔が固いよー」 「ごめんなさ――クシュン!」 この時スタッフは、更に時間がかかることを覚悟しただろう。 「テイク5……アクション!」 エステルがすっと立ち上がり、歩き出した瞬間、カメラスタッフが噴き出した。 「カット!なにやってんの!」 監督の厳しい声が、カメラスタッフに飛んだ。 「すみません。あの……エステルさん、鼻水が……」 「えぇ!?」 スタッフがティッシュ箱片手に駆け寄り、慌てて鼻をかむエステル。 「本当にごめんなさい……」 「次1回で終わるように気合い入れようか」 「ハイ!」 「ハイ行きます。テイク6……アクション!」 今回は動きもしっかり動いている。くしゃみもない。表情も自然。鼻水も出ていない。 「はいカット!OKだよ」 「ありがとうございます」 エステルは深々と頭を下げ、急いでティッシュ箱へ向かった。鼻をかみ、椅子に座りボーッとしていたエステルだが、頭の中でハルルの撮影を考えると、今にもくしゃみが出そうだった。 END
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

101人が本棚に入れています
本棚に追加