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エレナの愚痴は続く。
「だいたいさ、兄さんはいつまで油売ってんのだろうねー。いい加減腹が立って来たわ」
恨めしそうに言うエレナ。
ロイが近くにいれば間違いなく八つ当たりしていただろう。
そんなエレナに気を取られていたせいだろうか。
曲がり角を曲がった瞬間、リリスは誰かにぶつかるのを感じた。
「あ、すみません」
謝罪の声が重なる。
ふと相手の顔を見て――。
「え?」
リリスは呆気にとられた。
紅い髪、紅い目。
自分と同じ色。
まさか、実際に目の当たりにするとは思わなかった。
「あの、どうかしましたか?」
聞き覚えのある声。
だが、目の前の少年に見覚えは無い。
紅髪紅眼の彼は、マーセル学園の制服を着ている。
だが学校に居たなら、とっくに噂になっているはず。
不可解な事実が重なり過ぎて、リリスは声が出なくなった。
「あ――」
それは少年の方も一緒らしい。
前髪の奥から覗く瞳が、一気に困惑の色を浮かべ始める。
「うわ、凄い。リリス以外で初めて見た……」
エレナの声。
その声が、少年を我に返す。
「あ、すみません。一つ尋ねてもいいですか?」
遠慮気味に、少年が口を開く。
「は、はい、どうぞ」
リリスは思わずどもってしまう。
少年は少し躊躇ってから、言った。
「フレイダル=カーライルさんのお宅って、どちらですか?」
またしても予想外。
リリスとエレナは、二人して顔を見合わせる。
あまりに奇妙で不自然な流れに、彼女達の思考は凍りついてしまった。
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