disturbing

17/35
前へ
/234ページ
次へ
エレナの愚痴は続く。 「だいたいさ、兄さんはいつまで油売ってんのだろうねー。いい加減腹が立って来たわ」 恨めしそうに言うエレナ。 ロイが近くにいれば間違いなく八つ当たりしていただろう。 そんなエレナに気を取られていたせいだろうか。 曲がり角を曲がった瞬間、リリスは誰かにぶつかるのを感じた。 「あ、すみません」 謝罪の声が重なる。 ふと相手の顔を見て――。 「え?」 リリスは呆気にとられた。 紅い髪、紅い目。 自分と同じ色。 まさか、実際に目の当たりにするとは思わなかった。 「あの、どうかしましたか?」 聞き覚えのある声。 だが、目の前の少年に見覚えは無い。 紅髪紅眼の彼は、マーセル学園の制服を着ている。 だが学校に居たなら、とっくに噂になっているはず。 不可解な事実が重なり過ぎて、リリスは声が出なくなった。 「あ――」 それは少年の方も一緒らしい。 前髪の奥から覗く瞳が、一気に困惑の色を浮かべ始める。 「うわ、凄い。リリス以外で初めて見た……」 エレナの声。 その声が、少年を我に返す。 「あ、すみません。一つ尋ねてもいいですか?」 遠慮気味に、少年が口を開く。 「は、はい、どうぞ」 リリスは思わずどもってしまう。 少年は少し躊躇ってから、言った。 「フレイダル=カーライルさんのお宅って、どちらですか?」 またしても予想外。 リリスとエレナは、二人して顔を見合わせる。 あまりに奇妙で不自然な流れに、彼女達の思考は凍りついてしまった。
/234ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31682人が本棚に入れています
本棚に追加