disturbing

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リリスが振り抜いた左拳が、掌サイズの障壁魔法を張ったミリアの左手を弾き飛ばした。 「――はっ!」 返しの右。 ミリアの右手が弾ける。 「いい感じじゃねえか」 突然背後から聞こえた声に、リリスは思わず手を止めた。 「隙あり~!」 瞬間、ミリアの左ビンタがリリスの頭を叩く。 「あたっ!」 「ふふーん。まだまだ甘いねリリスちゃ~ん」 卑怯だ、とリリスは思ったが、自分が甘いのもまた事実で。 ぶすっと膨れて、肩を落とした。 「先輩、もういいんですか~?」 ミリアが尋ねた。 「まあな。ずっと寝てばかりもいられねえだろ」 半月ぶりに姿を見せたトーマは、以前よりずっとやつれて見えた。 リリスは不安になる。 彼等のような人種は、無理を無理だと思わない。 「調子良さそうだなリリス。対抗戦も期待できそうじゃねえか」 「はい、身体は前よりも軽く感じられます」 「なるほど。強化抜きなら、ハイドも油断できねえかもな」 トーマの笑顔も、少しぎこちない。 やはり、身体はまだまだ回復していないらしい。 眉を顰めたリリスを、遠くからエレナが呼んだ。 話し出した二人に挨拶し、リリスはその場を後にした。 「先生、もう良いのかな?」 帰り道で、エレナがふと口にした。 口調からは、懐疑がハッキリ感じられる。 それはないだろうとリリスも思う。 そう伝えると、エレナはため息をついた。 「そうだよねー。兄さんもそうだけど、男って生き物はどうしてこうなんだろうね」 全くもってその通りである。 こっちの不安など知りもしない癖に。
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