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「兄さん、か」
ロイが小さくこぼした。
思うところがあるのだろうかとアレンは引っかかりを覚える。
「君にもいるのかい? 兄さんっていうのが」
「ああ。どこほっつき歩いてんのか分からない馬鹿兄貴がな。去年の暮れに出ていったっきり帰って来やしねえ。できの悪い兄貴だよ」
などと言いつつ、ロイの表情は明るい。
「そっか。いいお兄さんなんだね」
きっと、あいつみたいな人なんだろうな、とアレンは直感した。
彼ほど『兄』が似合う男もまた少ない。
「今の話を聞いていい兄だとよく思えたな」
もっともらしいロイの返答も、アレンにはもう照れ隠しにしか見えない。
「君のお兄さんとも会ってみたいな。きっといい人だと思うんだ」
「いい人、か。ま、彼女を大泣きさせた上にゲッソリとやつれさせ、肌までボロボロにしたって所を除けば、いい奴かもな」
アレンが漏らした言葉に、ロイがニカっと、悪戯っぽく笑って答えた。
しかし今の話はなかなかにひどいものである。
それでもこの長身の少年の表情からアレンが読み取れるのは、その人に対する暖かい感情だけだった。
アレンが言う。
「その彼女は災難だね。ずいぶんひどい男を好きになったんだ」
「ま、今はああやって笑ってるからよ。結果オーライってやつ? ほら、あの紅いのがその『彼女』だぜ」
ロイが顎で指した先では、紅い髪の少女が友人たち、そしてアレンの姉たちと談笑している。
どうやら女性陣もこの短い時間で打ちとけたようだった。
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