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レイには確信があった。
転移でいつでも逃げられるトーマが、引き際を誤ることはまずない。
一時撤退ですらできない事情があったのだ。
「以前、師匠はシリウスと自分が、僕とハイドのそれと同じだと話してくれましたね」
「それだけのことでよく断定できたな……」
トーマの表情が少しひきつった。
「そのことに、少し思うところがありまして」
「何だよ」
「師匠は、彼を止めたかったんじゃないですか?」
「それで剣が鈍ったってか? さすがにそりゃ無いぜ」
「では、単純に力負けしたと」
「だから少しはオブラートに包めよ……」
トーマがやれやれ、とかぶりを振って続ける。
「そうだ。お前もリリスで知ってるだろう。ハーフの身体能力は普通の人間を軽く上回るってよ」
「それは、そうですが」
その程度の差、トーマならひっくり返せると、今の今までレイは思っていた。
いや、まだそう思っている。
しかし現実はコレだ。
「お前が俺をどう思ってるかは分からんが、俺より強い奴なんて居ても不思議じゃねえんだぞ? ただ、それがシリウスだっただけの話だ」
そう言われても、レイは「はいそうですか」とは頷けない。
自分とはかけ離れた実力を持つトーマが負けるなど、想像できなかった。
それに――
「マリーさんは殉職されました。師匠ではシリウスには勝てない。この国は、どうやって彼等を止めればいいんですか」
「その話も知ってたか……」
嘆息するトーマ。レイはじっと、その続きを待った。
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