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病室を後にする。
これから数日、どう過ごそうか。
そんなことを考えながら、レイは宿泊先のホテルに向かう。
自宅の近くに居ながら宿泊とは変な話ではあるが、帝国の選手団であれば当然のことである。
聞けば、セシル達はリリス達に王国の都心部を案内されるらしい。
双方を知るレイとしては、彼等が仲良くなるのは嬉しい。
いくら国の仲が悪くとも、個人の仲は別だ。
例えこの対抗戦が代理戦争という側面を持っていたとしても、当人たちはただ腕試しをするだけなのだから。
――しかしながら。
自分はそうはいかないだろう、とレイは思う。
いや、確信している。
ならばどうするか――
「あら。珍しいじゃない。貴方から私に用がある、だなんて」
ソファーに座っているレイに、黒髪の女性が話しかける。
帝国の代表だから予算が出ているのか、レイ達が泊っているホテルはロビーからして豪奢なところだった。
高い天井と、そこに吊り下げられたシャンデリア。
やわらかな黄色の光に包まれたこの空間は、むしろ落ち着かないぐらいに非日常である。
そのロビーの一角にある待合スペースに、レイはアイリスを呼び出した。
「すみません。少しだけ、尋ねたいことがございまして」
「いいわよ。可愛い甥の頼みですもの」
父の姉を自称する妙齢の女性はふわふわ笑った。
未だにレイは、この女性の年齢が分からない。
父より上なら、既に五十近いはず。
しかし彼女の容姿は、どれだけ高く見積もっても三十には届いていないだろう。
父よりむしろ、自分のほうが歳が近い気がしてならないのだ。
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