7人が本棚に入れています
本棚に追加
それならば、いっその事壊してしまいたかった。
騙して騙して騙し通して、
『あの頃みたいに…』なんて希望さえ抱けないくらいに、
傷つけて呆れられてしまえば良い。
だから俺は家族や医者に協力させ、
記憶喪失のふりをした。
あいにくここは俺の親父が経営している病院だった。
俺の言うことに従わない奴はいなかった。
君は日々やつれていく…
こんな弱い俺の為に傷ついていく。
もっと。
もっと。
もっと。
枯れてしまえ。
君の希望。
俺の希望。
『思イ出ス事ナンテナイ』
だって忘れてもいないから。
君の泣き腫らした目。
腫れた頬。
赤くなった鼻。
干からびた唇。
全て、全て、全て。
あの枯れきったパンジーに似つつある。
あぁ…それでも。
それでも君は、
枯れてなお君は、
凜と、そこに…
俺の傍にいる。
枯れるだけの花に与えられる水などない。
腐るだけの花に残された未来はない。
君なら…
ただ君なら…
こんな醜い花でも見捨てないと、
どこかで信じていた。
最期に、
俺は、
君に、
『君を思い出した』と、
『愛している』と、
言えるだろうか。
君だけは、
俺のように枯れないで。
.
最初のコメントを投稿しよう!