偽りのない花言葉

3/10
前へ
/25ページ
次へ
結末は、意外にもあっさりだった。 実感もない。 ただ、周りが悲しんで泣いているから、 やっぱり死んでしまったんだろう。 私は涙も出ない。 心は、本当にショックな事があると、 心の中にある感覚を一気に失うものなのかもしれない。 死体を見れば少しは泣けるかもしれない。 私は泣きたかった。 泣いてすっきりしたかった。 泣いてしまえば、現実を受け入れられるような気がする。 私と雅史の間に、愛が戻る前に終わってしまった。 私を愛してくれていた貴方が思い出せない。 私は、自分の愛がいつか冷めてしまうんじゃないかと、 それが怖かった。 死んでしまったと聞いて、頭の中にたくさんあったはずの雅史が、どんどん消えていった。 せめて死顔を思い出の中に。 そう思ったのに、雅史の両親や、友人達が見せてはくれなかった。 きっと私の心が一気に崩れると思っての気遣いだろう。 そんな気遣い、いらないのに。 何時間も、私は病院の屋上から、曇り空を眺めているだけだった。 それしか出来なかった。 「佳織さん…」 名前を呼ばれて振り向くと、そこには顔を真っ赤に腫らした雅史のお母さんの姿があった。 雅史を通して仲良くしてもらっていたけど、 今見るその人の顔は別人みたいだった。 「・・・どうか、したんですか・・・?」 声にも顔にも、何にも力が入らない私を見て、おばさんはまた目をわなわなと震わせた。 「あの・・・雅史の病室に・・貴女が、見なきゃ・・・見せなきゃならないものが・・・」 おばさんは口元にハンカチを押し当てて、 とうとう涙をこぼしてしまった。 要は、雅史の病室になにかあったのだろう。 それを私に見せたいのかもしれない。 「・・・一緒に、来て欲しいの。」 「・・・はい・・・」 .
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加