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結末は、意外にもあっさりだった。
実感もない。
ただ、周りが悲しんで泣いているから、
やっぱり死んでしまったんだろう。
私は涙も出ない。
心は、本当にショックな事があると、
心の中にある感覚を一気に失うものなのかもしれない。
死体を見れば少しは泣けるかもしれない。
私は泣きたかった。
泣いてすっきりしたかった。
泣いてしまえば、現実を受け入れられるような気がする。
私と雅史の間に、愛が戻る前に終わってしまった。
私を愛してくれていた貴方が思い出せない。
私は、自分の愛がいつか冷めてしまうんじゃないかと、
それが怖かった。
死んでしまったと聞いて、頭の中にたくさんあったはずの雅史が、どんどん消えていった。
せめて死顔を思い出の中に。
そう思ったのに、雅史の両親や、友人達が見せてはくれなかった。
きっと私の心が一気に崩れると思っての気遣いだろう。
そんな気遣い、いらないのに。
何時間も、私は病院の屋上から、曇り空を眺めているだけだった。
それしか出来なかった。
「佳織さん…」
名前を呼ばれて振り向くと、そこには顔を真っ赤に腫らした雅史のお母さんの姿があった。
雅史を通して仲良くしてもらっていたけど、
今見るその人の顔は別人みたいだった。
「・・・どうか、したんですか・・・?」
声にも顔にも、何にも力が入らない私を見て、おばさんはまた目をわなわなと震わせた。
「あの・・・雅史の病室に・・貴女が、見なきゃ・・・見せなきゃならないものが・・・」
おばさんは口元にハンカチを押し当てて、
とうとう涙をこぼしてしまった。
要は、雅史の病室になにかあったのだろう。
それを私に見せたいのかもしれない。
「・・・一緒に、来て欲しいの。」
「・・・はい・・・」
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