3人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
静まり返った密室
深海めいた静寂
押し寄せる天井
薄い闇が取り囲む
僕らを隔てるものは何もなくて
強いていえば視界が不自由な位
それだって触れ合えば
どうってことはなかった
灰色のフィルター越し
映し出される少女の祈り
指組む君は聖女のよう
僕は息を潜めて
それをみていた
きみをみていた
「何を祈ってるの?」
「朝がこないように」
「どうして?」
「怖いもの」
あなたがいるからと君が言う
無限なんかじゃない時間は絶え間なく食いつぶされている訳で、
何時までも一緒にはいられないのは承知のうえだった
「あなたが死んだらわたしはひとりになるでしょう」
「そうだね」
「死なないで」
「どうかなあ」
「意地悪をしないで」
レースのカーテンから透かしてみる空はきれいな藤色をしていて
君のスリップと同じいろだった
「死なない、不死身だから」
「嘘」
「本当」
「ピノキオ」
「鼻を御覧。低いままです」
「馬鹿」
「失礼だなあ」
「ごめんなさい」
雀がないて、
「ごめんなさい」
君がないた、
退屈なだけの夜が明けて。
君の恐れる朝がきて。
でも僕は生きている。
「だいじょうぶ」
「嘘」
「信じて」
抱き締めたのは小さな雀だったのかもしれない。窓辺に降り立ち、朝を告げにきてくれたかのような。
「おはよう」
「うん」
「おはよう」
「はい」
「おはよう。だいすき」
「……わたしも」
朝が来た。
.
最初のコメントを投稿しよう!