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トリガーに震える指が触れて、
ためらいを明らかにしながら、彼女は潤んだ瞳でこちらを見据える。平然と、まばたきを含みつつ彼女に視線を返してやると、反応に困っているのが伺えた。僕はにぃっと口許を吊り上げて、笑ってみせる。いつもと変わらずに。変わらないように。
うろたえる少女の息づかいが早くなる。まなじりに滲んだ涙がこぼれるのを必死に堪えているようだった。密着した腿がひどく温かく感じて、僕はずいぶんと久しく見上げていなかった空に目を向ける。それはこちらに不思議な圧迫感を与えるほどの重苦しいグレイ。
「こんなおめでたい聖夜に地獄へ召される気分はいかが?」
精一杯の嘲りと強がりを含んでふいに彼女が呟いた。
「最高だね。――おまけに僕をあの世まで連れて行ってくれるのは、こんな可愛らしい天使さまらしい」
そういえば今は冬だったのだ。そして今日はクリスマス。LEDなんかの類を駆使し、街が綺麗にライトアップされる、いつにも増して賑わう人達とチカチカ瞬く明かりが鬱陶しくてたまらないような、僕にとってはとても嫌な日。
「……わたしが天使?あなた、相当キマっちゃってるんじゃないの」
僕は薬になんか手を出しちゃいないよ、そう返すと、天使は僕から冷たい砂へと視線をうつした。
「……ばかだわ」
「頭が悪いっていうのは、自覚しているけれど」
「……どうして」
「うん」
「どうしてあんなことしたの」
「そうしなきゃ自由になれなかったからかな。君も僕も。それにあの時僕が撃たなければ、たぶん死んでたね」
「あなたは死にそうじゃない。脚もお腹も腕も撃たれて。きっと背中にだって被弾してるわ」
「だけど、止めを刺そうとしているのは君じゃないか」
冗談をこぼすと、はたりあつい粒が頬におちた。
「だって、痛いでしょう」
ガラスみたいな透明さで。深い青をたたえた君の瞳が驚く僕をうつしている。あらゆる顔のパーツをぐしゃぐしゃにしながら泣きじゃくる少女がそこにいた。
「きっととても痛い。わたしを庇ってあんなに弾に当たったから。ばかね。あなた、本当にばかよ」
名前を呼ぼうとしたけど、うまく声が出なかった。そろそろ僕の限界も近いようだ。
嗚咽を噛み殺し少女は一度涙を拭う。かちり、撃鉄がちいさく音を立てた。
「……楽にしてあげる」
「ありが、と……ま、た」
「……ええ。次は地獄で逢いましょう。すぐ、逢いに行くわ」
銃声が続けて二発、
響いた。
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