甘え上手な僕の髪、

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甘え上手な僕の髪、

撫でる冷たい指先に、 噛みついて。 擦りむいた膝の瘡蓋のあと。 なぞっては痛くないのと問うた。 こたえない君の胸のオトが、 ひびく、ひびく、 呼吸さえ気怠い真冬の午後に。 それでも絶え間なく続く鼓動。 「ねぇ」 「ん?」 「生きてて楽しい?」 「さあ」 問いかけて、 曖昧な答えを聞いた。 刹那、僕はここにいていいのかななんてちいさな疑問が浮かんだけれど、きっと望む答えなんて返ってこなくて、それを知ればひどく傷つきそうな気がして、怖くなってしまった。考えるのをやめることにした。 乾いた空気に投下される、君の白い吐息。今にもセカイと切り離されそうな歪曲した僕を繋ぎ止める唯一の存在。 時計の振り子みたく乱れのないオトが鼓膜を満たしていって。思いがけず速度を増した心臓はゆっくりとゆっくりと落ち着きを取り戻してゆく。 けれどやっぱり怖かった。 だってずっと、そのことから逃げ続けてきたのだから。絶え間なく繰り返されていた問答。未だ空白のアンサー。僕は沈黙したままで。苦しいのに。でも。眼前に突きつけられている刃から目を逸らしているみたいな奇妙な緊張感と、隙間に入り込みはじめた安堵感を。 頑なに守り続けて、いた。 「―――こわい、ね」 破滅するのなんて知れたこと。僕が疑問を持ち始めた時点で、僕はすでに狂っているのだ。今更それを否定することなど出来ないし、だけどその疑問を無いものにすることも出来ない。いつか僕は潰れるだろう。現に不安はこんなにも頭のなかを侵食しているのだし。 だけど水面に、小石を投じてみたかった。――吐き出した不安のかけらが、鐘の名残みたいに静寂を突き抜けて。こわ、くなった。君が答えるのがこわかったから、目を塞ぐことにした。 「生きるのは、こわい」 「……こわい、の?」 「こわい」 「そうかな」 「……そうだよ」 「そっか」 「うん」 「わたしと一緒でも?」 なんだかあっけらかんとして、僕は恐る恐るセーターの袖を瞼からどける。そこにはにこりと微笑む彼女の顔があった。 「もしかしてキミ、自分がひとりだとでも思っていたの」 「――うん」 「ばかなんだね」 「ばかでした」 「半分になるよ」 「ん?」 「ふたりだから、半分になる」 胸元まであるのを背中に流していた柔らかい髪の房が、するりと僕のもとに落ちる。冷たい指先が、次は頬を撫でた。涙が出た。 「    」
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