落ちた先は

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空は夜の暗さを湛えていた。 そして僕は後ろから誰かに押された。 「おわあ!」 僕はマンホールのような円柱の穴を落ちていった。思いのほか落下していた時間は短かったけれど、位置エネルギーと運動エネルギー、そして変な手のつきかたをしてしまったせいか、腕に激痛が走っていた。 「があああ!」 狼が咆哮をあげるかのごとく上を見て叫ぶ。その時に、ちょうどマンホールの蓋がしめられた。途端に、すべては闇と化した。自らの手すら見えず、僕はただただ右腕の激痛に叫ぶばかり。 その時、口に異物が入ってきた。 蠢く、異物。 悪寒に襲われてそれを吐き出していると、今度はふくらはぎに何かが張り付いた。それは虫の足のような感触に思えて、僕は焦りと生理的悪寒から体を大きく暴れさせた。 ふくらはぎにいた何かは、僕の激しい動きによって取れた。僕は安堵のため息をついた。しかし、僕は唐突に凍りついた。 無数の羽音がこの小さなトンネルにこだまするのだ。何か、何かが迫ってきている。僕は走ろうとして、しかし焦りに足がもつれて倒れてしまう。骨が折れたであろう右腕は床に強く当たって激痛を引き起こした。 苦痛に口をあけていると、またもや何かが口に入ってきた。僕は慌てて吐き出す。しかし、今度は一匹じゃなく何匹も、何十匹も、何百匹もが僕の体に張り付いて、蠢動した。 肌は噛まれているのかチクチクと針をさしたような痛みが走る。口はもうわけがわからないくらいに虫でいっぱいになっていた。喉にも数匹入っているらしい。 僕は吐瀉した。虫はそれで一度は吐き出されたけれど、また入ってきた。僕にはもうなすすべはなく、何百匹もの虫に体を犯され続けられた。 数日後。虫の駆除をかねて点検しにきた人が見たのは、虫に体を食い散らかされた僕の変死体だった。
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