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本編
(……ああ、空が眩しいや…)
駅前の噴水広場で、男が一人仰向けに寝転がり呟いた。
男の名は栄二。つい先程まで彼は誰もが振り返る様な女性と一緒にいた。だが今は栄二自身が通行人にジロジロと見られる情けない姿を晒している。
そもそもの発端は2日前、バイト先での出来事に遡る。
栄二のバイト先には二人の“古林さん”という女の子がいる。
一人は“古林愛実”さん。その名前の通りに実に可愛く、誰にでも優しい。
「おはようございまーす♪」
と彼女がやってくるだけで男ならば誰もが幸せな気分になり、そして微笑む。
栄二のバイト先の野郎共の間では“まなみちゃん”だとか“まなちゃん”で通っているが本人を目の前にして大体のヤツがそんな風には呼べず、もっぱら名字の「古林さん」と遠慮がちに呼んでいる。
まったく、実際の話、何人の野郎共が彼女に恋をしているのだろう?
モチロンこの話の主人公である栄二も愛実に恋をしていた一人である。
彼女がシフトに入っているときは、例えどんな用事があろうとも野郎共はバイトを休まない。
まさに“職場のアイドル”といった存在だ。
そして対するもう一人の方は“古林宏美”。こちらの方は通常「古林」とか「宏美」とかと呼び捨てにされている。
本人曰く
「目が悪いから」
グリグリの眼鏡を愛用し、
本人曰く
「仕事の邪魔になるから」髪を三つ編みのおさげにし、
さらに極めつけと言わんばかりに本人曰く
「これで十分だから」
という理由で、逆に男達に言わせれば
「…ねぇ?どこに行けばそんな服買えんの??」
と聞きたくなるような何とも言えん格好をしてバイト先に現れる。
まぁ、野郎共からしてみれば“色気のイの字も感じない”存在であった事は確かである。
そして、この日の深夜0時30分。バイトの終わる時刻からこの物語は始まる。
「おつかれ~」
「お疲れ様でした」
「おつかれーっす」
「お先!」
「お先に失礼しまーす」
みんなそう言って、当番で後片付けをする事になっている数人を残し退社するのだが栄二はまだ帰るわけにはいかなかった。
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