第三章

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柚月にしか見えない過去の世界。 他人に説明してもきっと誰一人として理解して貰える事は無いだろう。 だが、それでも良い。 自分さえ理解出来れば、それで。 「おいおい嘘だろ。 何だよコイツ」 柚月が驚愕の声を上げても、それが見えていない雪花には何が何だかサッパリ理解出来ていない。 雪花は柚月から、見たままの場景を聞き出すしかないのだ。 「どうしたの? 何が見えるの?」 「一人の男だ……」 「え?」 「これだけの数を殺ったのは組織とかチームだとか、複数だと思ってた。 でも違う―― この数を殺ったのは、一人の人間なんだよ」 「それって、これ全部? 軽く見積もって六十機くらいあるよ」 「なら、それだけの数を一人で相手に出来るって事だろ」 はぁ……はぁ……と柚月が膝に腕を突き、乱れた呼吸を整えようとしていた。 過去視を解除したのだろう。 「アイツ……電話しながら片手間でこの数を相手にするだと。 はぁ……――よし。 姉さん、車回して。 “ステート・タワービル”だ」 柚月はコートを翻し、車の助手席に回った。 「私は良いけど。 そう言えば柚月、レイヴンって人の所に行くんじゃ……」
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