第三章

59/59
前へ
/274ページ
次へ
その額には汗どころか緊張の表情すらも浮かべていなかった。 「――さっきの話の続きだけど、その男があそこで抗戦したのは何故?」 「男よりも先に、数人が貨物庫に入って何かを運び出してるのが見えた。 それが何かは解らねえけど、ReFの攻撃を自分が全て受けてたって感じだ」 「柚月は何でその男を追おうと思ったの? 柚月とは何の関係も無いかもよ」 「ゲイル=ミッドフォード邸に潜入した時に、電話を盗聴……というより壁越しに聞き耳を立ててたんだけどな、その時の言葉のリズムが似てるんだよ。 人間の言葉には、当人が気付かぬ内に刻んでいるリズムがある。 口調が早い奴や遅い奴のように。 向こうの言葉は聞こえなかったが、ゲイルの言葉から、どんなやり取りがあったのかはおおよそ予想出来る。 後は計算だ。 過去視で見たあの男の口の動きと、電話の男のリズムを比較する。 ――ほぼ、ドンピシャリだったよ」 「じゃあ、戦り合うんだ」 「試してみるだけさ。 奴が関係人物なら――殺す」 柚月はそれきり黙り込んでしまった。 膝の上に乗せたヴァルナを、簡単にチューン(調整)していた。 もし、戦闘になれば全力を出す。 柚月はそう決めたから。
/274ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加