二、奇談の一 猫又

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 尾が二又に分かれ、鋭い金色の眼に耳元まで裂けた口に並ぶ牙、まさしく猫又の姿であった。  「でけぇ…。」  伸太郎は右手に持った独鈷杵を握り直すと、思わず呟いた。  『久々に現し世に出てみれば、中々食いでのありそうな小童(こわっぱ)じゃ……』  その姿三メートル余り、地の底から響いてくる様な不気味な声で、猫又は呟いた。  小童と言われて、少しムッとした伸太郎が応える。  「小童で悪かったねぇ。 でも、アンタくらいの妖なら、僕等にでも退治できそうだよ?」  不敵な表情で伸太郎が言うと、猫又は再び地の底から響くような声で笑い声をあげた。  『面白い。 小童、儂を退治すると言うかっ!!』  猫又は言うが早いか、その太い前足を振り上げ、銀白色に輝く鋭い爪を出して伸太郎に襲い掛かって来た。  伸太郎は慌てる様子もなく、左手に握った数珠を前方へ突き出し、一字種という真言の一種を叫んだ。  「きりくっ!」  十一面観音の一字種であった。  すると、数珠を中心に六角形の光輪が現われ、襲い掛かってきた猫又を弾き返した。  ずん、と大きな音と共に猫又は転がり、悔し気に言った。  『おのれ、法力を持っておるのかっ!?』
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