二、奇談の一 猫又

12/15
前へ
/50ページ
次へ
 すかさず伸太郎が叫ぶ。  「鳴滝彦、金剛鈴!!」  金剛鈴とは、密教で使用される鐘の一種で、その響きは破邪退魔の力があるとされる。  りーん  ちりーん  澄んだ音色が周囲を包む。  その刹那、猫又の動きが金縛りにあったように固まった。  『小癪な真似をしおってぇえーっ! うう、動けぬ!!』  りーん、ちりーん 金剛鈴の響きが鳴り続ける。 「猫又、浄化してあげるから、素直に還るべき所へ還りなよ。 現代(いま)の世の中は、妖にとって決して住み易い世界じゃないと思うよ?」  伸太郎は、憐れみに満ちた表情を浮かべながら言った。  そして馬頭観音の印を結ぶと、静かに真言を称えはじめた。  「おん、あみりとどはんば、うん、はった…。」  三回、七回と真言を称えていくうちに、猫又の様子が明らかに変化してきた。  ぅおおおぅ…
/50ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加