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二、奇談の一 猫又
まだ残暑の残る深夜の事である。
『伸太郎さん』
『伸太郎さん…!』
少年の声が夢と現の狭間から聞こえてくる。
「うーん…。
こんな夜中になんだよ、鳴滝彦ぉ。」
眠い眼をこすりながら、伸太郎はベッドの上に起き上がり、ベッド横のテーブルから眼鏡を取ると鼻の上に乗せた。
時計は午前の二時を過ぎた所だった。
丁度丑三つ時あたりといった所か。
声の主は鳴滝彦という千年程前に生きていた少年の霊で、年の頃なら十二、三といった所か。
生きていた頃は、そこそこの家系の子であったらしく、腰あたりまで伸びた髪を後ろで結び、狩衣を着ている。
今は伸太郎の護法童子、霊的な助手という役割をしている。
「寝てる所を起こすなって、あれほど言ったのに…」
少し不機嫌そうな伸太郎の様子に、鳴滝彦は全く動じずに言った。
『私のような、この世ならざる者というには、今頃の刻限が一番活動しやすいんですよ。
伸太郎さんもご存知でしょ?』
「そりゃ、まぁ、そうだけど、さぁ。」
そう言って、伸太郎は口の中でごにょごにょと文句を言っていた。
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