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『汝(なれ)は身罷りし吾(あ)が姿が見え、話もできる
さすれば神職の者か?』
古墳の貴人は、鷹揚な微笑を浮かべながら、腰に帯びていた太刀を伸太郎に手渡した。
『未来の神力ある者よ。
この太刀を汝(なれ)に下そう。
吾(あ)は再び陵(みささぎ)へ戻り、眠りに就くとしよう。』
そう言うと、古墳の貴人はバリケードを擦り抜け、古墳の中へと消えていった。
後に残った伸太郎と鳴滝彦は、狐にでもつままれたような顔をして、その場に立ち尽くしていた。
しばし呆然としていた伸太郎だが、はっと我に返ると、へたへたとその場に座り込んだ。
「あ~緊張したぁ。
何とか穏便に済んで良かったよぉ。」
座り込んだまま、古墳の貴人から下された太刀をまじまじと見た。
千三百年も経ているというのに、どこにも風化したり錆びたりはしていない。
太刀の柄を見ると、金や銀で美しい象嵌が施され、実に見事な物であった。
また、刀身からはかなり強い霊力が放たれ、銀白色に輝いていた。
『伸太郎さん、これ…。』
鳴滝彦を見ると、その手には太刀の鞘があった。
その鞘もまた、金銀の象嵌や貝の螺鈿細工が施された見事な物であった。
伸太郎は鳴滝彦から鞘を受け取り、太刀をその中に収めた。
「鳴滝彦、早く帰ろう!
こんな大きな刃物を持ってたら、銃刀法違反でつかまっちゃうよ!」
伸太郎は急に現実的になると、早足で歩き出した。
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