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伸太郎が思い出したように言うと、鳴滝彦は残念そうに言った。
『私は東夷(あずまえびす)ですからねぇ。
都で鵺が宮中に現れて、源頼政様の弓で退治されたって噂を耳にしたくらいなんです。』
鵺に関する情報は、三人にとってあまり多くはないようだった。
それからさらに数日が経ち、とある満月の夜の事である。
夕刻まで清(さや)かに晴れて、初冬の高い空が快かったのだが、夜が更けるにつれて不気味な雲が空のあちらこちらに出るようになった。
「今夜あたり現れそうだな…。
鳴滝彦、宗太を呼んで来てくれないかい?」
「はーい」と相変わらず呑気な返事をして、鳴滝彦はすぅっと消えていった。
伸太郎は、ウエストポーチの中に輪袈裟と独鈷杵、数珠が入っているのを確認し、摩尼宝珠の横に置いていた勾玉を取り上げると、首に掛けた。
伸太郎の胸元で、勾玉が熱をおびている。
また、摩尼宝珠の輝きも普段より鈍い。
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