二、奇談の一 猫又

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 山吹町の駅からしばらく坂を下って、入間川の方へ足を運ぶと、国道十六号線へ出る。 国道を右へ曲がってしばらく歩くと、鳴滝不動堂と呼ばれる小さな寺がある。  創建は保元の乱(千百五十六年)頃という由緒ある寺で、正式には徳養院普念寺という。  かつては相当広大な寺域を誇っていたが、度重なる戦火や天災、果ては明治期の廃仏棄釈により、現在では本堂と言うにはかなり小振りな不動堂と、住職の住居と僅かばかりの墓地だけになってしまった。  鳴滝不動尊の裏手には、明らかに人工の物と思われる塚山があり、古墳ではないかという噂がある。  その辺りに、『猫又』が出たというのだ。 幸い、今回危害を加えられた人は出なかったようだが、霊能者の伸太郎としては放っておける事ではない。  「鳴滝彦、お前のその”ねっとわぁく”とやらで、猫又の出そうな時間とか、情報を集めてくれないかな。そう、できるだけ早くがいいな。犠牲者が出る前にね。」  伸太郎は、コーヒーを一口啜るとそう言った。  『任せて下さい、私の”ねっとわぁく”は超優秀ですからね。』  伸太郎はコーヒーを吹き出しそうになった。
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