8月15日雨

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 危ないと思ったら、口を開けたまま少年の財布が床に落ちた。チャリンと音をたてて小銭が散らばる。急いで小銭を拾う少年の項にデジャブを覚え、首を捻りながら足元に転がってきた100円玉を拾い上げた。 そこでピンと来た。 「もろずみりん」 口に出すと、少年はゆっくりと立ち上がり、猛を見た。 と、同時に 「すみませんでしたっ!」  勢いよく頭を下げられた。呆気にとられている猛を横目に続ける。 「無神経に、ベラベラ聞いて…本当に、すみません」  再び深く頭を下げられ、猛も慌てた。自分も昨日凛にやり過ぎていた事に、少なからず罪悪感を覚えていたからだ。謝るべき処を先に謝られて気まずい。 そして少しめんどくさい。猛は少し間をおいて「俺こそ…」と呟いた。もしかしたら聞こえていないかもしれない。 「吾妻さんは悪くない。悪いのは私」  聞こえていたらしく、しっかりした口調で返事が返ってきた。凛のはっきりした態度に困っていると2000円を差し出された。「ああ、お釣りね」緩慢な動作でレジをうち、小銭を凛の手に乗せる。 「ありがとう」  指の先が少し触れたように感じた。凛の顔が赤くなる。 「それじゃあ」 と、店を出ようとした瞬間、ザアッっという音とともに急に雨足が強まった。 「あの…」  申し訳なさそうに凛が振り返る。 「雨宿りさせてもらっていいですか?」  大事そうに抱かれたアロマテラピーについての本は紙の袋にしまわれている。いくら傘をさしたところで濡れるのは必至だろう。  猛は無言で奥にもう1つあるパイプ椅子をレジの隣に広げた。  土砂降りの雨はいっこうに止まない。凛が緊張気味に椅子に腰掛けてから1時間が経とうとしている。気まずいのは、凛の髪型がもしかして自分の言葉のせいなんじゃないかと気付いてしまったからかもしれない。快適な室温の店内、猛一人が背中にじんわり汗をかいている。  凛はというと、暫くは外を眺めていたが、購入した本を読み出した。…ように見えるが、時々視線を感じるので、猛も「振り」なんじゃないかと思い始めている。 「はぁ…」  何度目か解らない無意識の溜め息を溢した。
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