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「好きな男を捕まえるなら、まず胃袋からつかめって言うじゃないですか」
何回目かに凛は笑顔で話した。
「いやいや、ご承知の通り、俺、ゲイだから。かすってもないし。欲しいなら胃袋だけアゲマス」
雑誌に目を落としながら適当に答えていた。
「…」
珍しく凛が黙った。暫く放置していた猛だったが、沈黙が長いので顔をあげた。いつの間にかカウンター前に来ていた凛が、痛いほど猛を見つめていた。
「な…何?」
カウンター越しとは言え、近い。
「くれるんですね。胃」
凛はニヤリと笑っている。猛は怪訝な目で「やっぱやらない」と呟いてまた雑誌に目を落とした。
「吾妻さんが欲しいなぁ、吾妻さんの全部が欲しい」
客のいない店内。凛がカウンターから軽く身を乗り出し、歌うように言う。
猛は凛を一瞥し「キモい」と呟く。
「吾妻さん、最近警戒心無いですよね」
楽しそうに凛は言う。猛は「そりゃこんなに毎日通われたら免疫もできる」と思いながら、凛を無視して雑誌の頁を進める。
「あんまり油断してると襲いますよ」
「困る」
即答する猛に凛の笑いが苦笑いに変わる。
「女に興味ない」
「試してみないと解らないじゃないですか」
「裸見ても起たないのに?」
「目を瞑ってたら?」
「試す意味がない。」
「私にはある」
気が付くと、凛がカウンターから身を乗り出し、猛の髪を摘まんでいた。
やめろという前に手は離れた。
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