8月30日晴れ

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「好きな男を捕まえるなら、まず胃袋からつかめって言うじゃないですか」  何回目かに凛は笑顔で話した。 「いやいや、ご承知の通り、俺、ゲイだから。かすってもないし。欲しいなら胃袋だけアゲマス」  雑誌に目を落としながら適当に答えていた。 「…」  珍しく凛が黙った。暫く放置していた猛だったが、沈黙が長いので顔をあげた。いつの間にかカウンター前に来ていた凛が、痛いほど猛を見つめていた。 「な…何?」  カウンター越しとは言え、近い。 「くれるんですね。胃」  凛はニヤリと笑っている。猛は怪訝な目で「やっぱやらない」と呟いてまた雑誌に目を落とした。 「吾妻さんが欲しいなぁ、吾妻さんの全部が欲しい」  客のいない店内。凛がカウンターから軽く身を乗り出し、歌うように言う。  猛は凛を一瞥し「キモい」と呟く。 「吾妻さん、最近警戒心無いですよね」  楽しそうに凛は言う。猛は「そりゃこんなに毎日通われたら免疫もできる」と思いながら、凛を無視して雑誌の頁を進める。 「あんまり油断してると襲いますよ」 「困る」  即答する猛に凛の笑いが苦笑いに変わる。 「女に興味ない」 「試してみないと解らないじゃないですか」 「裸見ても起たないのに?」 「目を瞑ってたら?」 「試す意味がない。」 「私にはある」  気が付くと、凛がカウンターから身を乗り出し、猛の髪を摘まんでいた。  やめろという前に手は離れた。
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