10月10日曇り

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「すごぉい。吾妻さんて絵超上手いんですねぇ~」  名前も知らない女子社員に手元を覗き込まれ、猛はぼんやり「そうですか?」と返した。9月いっぱいでいつ終わるかもしれぬ古本屋でのバイトはやめ、少し離れたパチンコ店に鞍替えした。こちらもバイトであるものの、本屋に比べたら賃金は格段にいい。店内の大音量やヤニ臭さにも慣れてきたし、スロットの当たり目も揃えられるようになりつつある。  女子店員はまだ書いている途中の景品PRチラシを取り上げた。 「うわっ。すっげぇ細かいし」  文字を白抜きにした上影に荊を伝わせたのが気に入ったらしい。「すごいスゴイ」と言いながら、蜂蜜色の巻き髪を指にしきりに巻き付けている。  じっと見つめると、社員は少し赤くなって「ゴメン。返すね」と、再び猛の前にチラシを置いた。照れ隠しのように店員が時計を見る。 「あ、そろそろ休憩の時間じゃん、」  聞こえる独り言を呟いてスタッフルームに消えていった。  定時ではけると、もう結構な時間だった。このバイトのために購入した中古のベンリーに跨がったところで携帯が鳴った。  赤木だった。  古本屋でバイトをしていた頃に、番号を交換していたのだ。すっかり忘れていた。 「吾妻さん、今仕事終わりすか?」  赤木はスロットの趣味があるらしく、店で会ったときは驚いたが、少し話をするくらいにはなっていた。いつになく真剣な声色に耳を傾ける。 「ちょっと遠いけど、街まで来て貰えませんか。鯨って店です。」  それだけ伝えると電話は切れた。
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