10月10日曇り

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大きな黒板が目印の居酒屋に入る。店内は日付が変わる前にしては結構な人数で賑わっていた。赤木の姿を探すが見当たらない。仕方なく電話をかけると、奥の座敷らしい場所から赤木がむっつりと顔を出した。 「…何?」  個室の暖簾をくぐって、赤木の前に滑り込む。堀炬燵になっているテーブルの上には明らかにもう一人いた様子。 「もー…やんなるなぁ…」 赤木は左手にジョッキを握ったまま後頭部をガシガシと掻いた後、ため息を漏らした。 「…凛ちゃんすよ。吾妻さん、来るっつったら慌てて帰っちまったんス」  通りで、この机。妙に納得し、気もなさげに「ふーん」と呟く。 「電話番号すら知らないって言うじゃないスか。何にも知らせないって、酷くないですか?」  赤木は感情的に目の前にある琥珀色の液体を飲み干した。確かにバイトを辞めることは凛伝えていない。特に何の挨拶もせず今のバイトに移った。少し気になってはいたが、わざわざ伝える必要があるか?凛とは友達でも何でもない。それで終わった事だと考えていた。  通りすがりの店員を捕まえ、ビールを注文する。予想外の早さで到着したそれをあおって半分まで飲み干した。 「なんで惹かれないかなぁ」 赤木が悔しそうな、それでいて夢見がちな瞳で呟く。久しぶりに店に現れた凛に、飲みに誘われたものの最終的には吾妻に会いたいと泣くように酔い潰れ眠ってしまったのだそうだ。で、肝心の猛を呼ぶとなると、真っ赤になって慌てて帰ったと。 「ゲイだし」 「中学生かっ」 所々口には出せない突っ込みをしながら…飲むしかない…この後数時間赤木の愚痴に付き合うはめになった。
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