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その風は、ずっと冷気を浴びていた身体の温度を徐々にあげていく。しかし、不快ではない。むしろどこか懐かしく心地いい。
裸足のままコンクリートに足をつける。小さな小石が足の裏を刺激するが、気にせず足を前に出し物干し竿をくぐる。
目の前に黄金色に染まる家々が広がる。周りを見渡すと何故か満ち足りた気持ちになった。
視線はそのままに緩く束ねた髪に手を伸ばす。指先が固い物に触れると人差し指と親指でそれを挟み、胸元の方に滑らせる。乾いた音とともに色素の薄い癖っ毛が落ちてきた。
胸に落ちてきた髪を後ろに払いのけると、大きく深呼吸をして何を考えるでもなく外の風景を眺めていた。
しばらくすると何処からか良い匂いが漂ってきた。夕食の事を考えていなかったのに気付き慌てて部屋の中に入る。
キッチン用品は、まだ出していない。積まれたダンボール一つ一つに目をやる。
……一番下にあった。
日頃あまり動かさない身体は今からキッチン用品を取り出し、買い物に行き料理を作るという体力を残していない。
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