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夕暮れに二つの影が並ぶ。村上さんはあっちがクロワッサンの美味しいパン屋だとか、こっちが駅の近道だとか、詳しく説明してくれた。
一通り教えてもらった後、村上さんは私に何か用があって来たことを思い出した。
「そういえば、私に用ってなんだったんですか?」
村上さんは忘れていたようで、不思議そうな顔で首を傾げたかとおもうと“あっ”と話し出した。
「そうそう! マンションのオートロックのことなんだけどね」
出入り口についている文字盤が頭に浮かぶ。入居が決まった時に四桁の番号を教えてもらった。たしか“0108”村上さんの愛犬の誕生日らしい。
「あれね。今暗証番号式じゃない? 最近物騒だから入居者の人達には、鍵で開けてもらうことになったのよ。勿論、これからも暗証番号でも開くんだけど、出来るだけ鍵を使ってね」
村上さんはそう話しながら立ち止まり鞄から鍵を取り出すと、私の手に差し出した。それを“ありがとうございます”と受け取った。
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