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「そういえば今日は伊藤君は一緒じゃないの?」
「ええ。今日はバイトがあるとかで先に帰ったわ」
「そうなんだ。伊藤君バイトしてたんだ。なんかイメージできないなぁ」
ちなみに、伊藤君とはキキョウちゃんの彼氏で、私の友達だ。
「そうね。私も初耳だったわ。まぁ、いつも通りでしょ。何をしていても私は楽しみに待つだけだわ」
「キキョウちゃんもいつも通りだね。そういえばryキャッ!!」突然、体の力が抜けて転んでしまった。手首の再生が始まってしまったのだ。いつも唐突に始まるこれは、何回やっても慣れるものではない。
「大丈夫?…じゃないわよね。…家までまだ遠いわね…。ちょっと待っていなさい。車を呼ぶわ」
キキョウちゃんは、動じることもなく携帯電話を取り出して、車を呼んでくれた。キキョウちゃんは、お嬢様だから車を呼ぶなんて造作もないことである。程無くして、車が到着した。運転席から黒い服の人が出てきて、キキョウちゃんのために後部座席の扉を開けた。
「お嬢様、お迎えにあがりました。どうぞお乗りになってください」
この人はお付きの桜山さんだ。初老だが背中がまっすぐで年を感じさせず、いつでも慇懃な印象を与える人だ。
「私はいいから、この娘を先に家まで送ってあげて」
「かしこまりました。では、朱紗様こちらへ」
そろそろ限界な私はお言葉に甘えて、這うようにして車に乗った。キキョウちゃんも私を後ろから押し上げてくれる形で、隣の座席に乗った。
「それでは出します」
桜山さんがそう言って、車を出したところで私の意識は、ブッツリと途切れた。
次に目が覚めたのは、家のベッドの上だった。
「あら、目が覚めたのかしら?」
重い頭を動かすと、ベッドの横にキキョウちゃんがいた。
「キキョウちゃんが運んでくれたの?着替えまで…ありがとうね」
「私が好きでやったことなのだから、気にしなくていいわ。それよりも、今日のはいつもよりも重そうね」
そう。今日の疲労感はいつもの再生時よりも重いのだ。意識が途切れるなんて久しぶりのことだった。まだ、頭ぐらいしか動かせない。
「うん。今日のはちょっとキツメかも。最近、頻繁に千切れてたからかなぁ」
「そうかもしれないわね。まぁ、今日はゆっくりおやすみなさい。また明日会いましょう」
「うん。また明日。学校でね」
そう言って、キキョウちゃんは帰って行った。
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