■第一話「アップ・ザ・ロード」

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――気が付くと、シェイン達は教科書を手に音読していた。 少々気が散るが、熱心なのはいい事だ。 ザックは、それよりも森の美しさに見入っていた。 目の前には、まさに「幻想的」という言葉がピッタリな光景が広がっている。 木々に積もる雪に目を奪われ、歩いた雪道の足跡さえ愛おしい。 すでに写真の構図は決まっていた。 ザックはしゃがみこみ、下から木々を見上げるように写真を構えた。 木々の圧倒的な存在感を表現するための撮影方法である。 シェインは、自分も一緒に映すようザックにねだった。だが、すぐさま否が返ってくる。 「俺は、風景写真専門の写真家でね。」 ザックは、言いながらカメラを構え、シャッターを押した。 が… おかしい。確かにシャッターを押した筈。にもかかわらず、音がまるでしなかった。 写真が撮れているかを確認した矢先、時間差でようやくシャッターの音がした。 故障かと思い、試しにもう一度シャッターを押してみる。 が、やはり結果は同じ。 なぜか時間差でシャッター音が発せられた。 「これってまさか… ラグってやつじゃない?」 様子を見ていたカインが、兄のシェインに話しかけた。 平静を装うが、その顔は不安を滲ませていた。 シェインは頷き、弟同様表情を強ばらせた。 (――ラグ…か。こうも頻繁に起こるってことは…) ザックは厄介そうに呟いた。 「地球の磁場が、まれに強力な生体磁場により変異を起こし、時間の流れが重くなる…ザックさんが言ってたやつだね。」 カインの言葉に、ザックは小さく頷いた。 「磁場を荒らす存在が近くに…」 突如、木々が揺らめき始めた。 同時に、茂みから巨大な影が現れ、三人に襲いかかる。 巨体を生かして突進を仕掛ける威圧的な影。 それは鋭い牙を備えた猪だった。 「二人とも、ここから動いちゃ駄目だよ。」 ザックはそう言い、シェイン達の反対方向に走り出した。 ――この猪も"ラグ"の影響で暴れ出した。 そう感じたザックは、怯えて動けぬシェイン達を救うため、わざと目立つように移動し、猪の意識を自分に向けさせたのだった。
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