266人が本棚に入れています
本棚に追加
――気が付くと、シェイン達は教科書を手に音読していた。
少々気が散るが、熱心なのはいい事だ。
ザックは、それよりも森の美しさに見入っていた。
目の前には、まさに「幻想的」という言葉がピッタリな光景が広がっている。
木々に積もる雪に目を奪われ、歩いた雪道の足跡さえ愛おしい。
すでに写真の構図は決まっていた。
ザックはしゃがみこみ、下から木々を見上げるように写真を構えた。
木々の圧倒的な存在感を表現するための撮影方法である。
シェインは、自分も一緒に映すようザックにねだった。だが、すぐさま否が返ってくる。
「俺は、風景写真専門の写真家でね。」
ザックは、言いながらカメラを構え、シャッターを押した。
が…
おかしい。確かにシャッターを押した筈。にもかかわらず、音がまるでしなかった。
写真が撮れているかを確認した矢先、時間差でようやくシャッターの音がした。
故障かと思い、試しにもう一度シャッターを押してみる。
が、やはり結果は同じ。
なぜか時間差でシャッター音が発せられた。
「これってまさか… ラグってやつじゃない?」
様子を見ていたカインが、兄のシェインに話しかけた。
平静を装うが、その顔は不安を滲ませていた。
シェインは頷き、弟同様表情を強ばらせた。
(――ラグ…か。こうも頻繁に起こるってことは…)
ザックは厄介そうに呟いた。
「地球の磁場が、まれに強力な生体磁場により変異を起こし、時間の流れが重くなる…ザックさんが言ってたやつだね。」
カインの言葉に、ザックは小さく頷いた。
「磁場を荒らす存在が近くに…」
突如、木々が揺らめき始めた。
同時に、茂みから巨大な影が現れ、三人に襲いかかる。
巨体を生かして突進を仕掛ける威圧的な影。
それは鋭い牙を備えた猪だった。
「二人とも、ここから動いちゃ駄目だよ。」
ザックはそう言い、シェイン達の反対方向に走り出した。
――この猪も"ラグ"の影響で暴れ出した。
そう感じたザックは、怯えて動けぬシェイン達を救うため、わざと目立つように移動し、猪の意識を自分に向けさせたのだった。
最初のコメントを投稿しよう!