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「もう少し大きくなったら出来るようになるよ。みんなが持ってる力だからね。」
落胆する子供の頭に優しく手を置き、ザックはにこやかに話し掛けた。
掌の温もりは、頭を通じ笑顔を生ませた。
一部始終を隣で見ていたもう一人の子供もまた、笑顔を作っていた。
だが、それはなにやら無邪気なそれとは違い傲慢さを秘めていた。
ふいに、自信に満ちた表情でその子供は立ち上がる。
そして、ザックと同じように指で文字を書くしぐさを始めた。
なぞった後には…
《シェイン》
《カイン》
見事、二人の名前が綴(つづ)られていた。
それを見、先ほど宥(なだ)められ機嫌を戻した子供が、「いじわる」と言い、再びふてくされた。
「いじわる」と言われ、得意げな顔をしているのはシェイン。それを悔しそうに見つめているのはカイン。二人は兄弟だった。
《しずかに》
ザックは、うるさく騒ぐ二人を指先で制止した。
文字が無言の圧力となって二人に伝わり、部屋は一斉に静まり返った。
「チャットリングは、俺みたいに色々な場所を行く人は、必ず覚えなきゃならないものだよ。覚えるにはどうすればいいか、解るよね?」
「勉強!」
姿勢をただし、敬礼。旧文明でいう軍隊の如き振る舞いである。
そしてカインは、兄よりも嬉々とし、「何か作り出してみて」とねだり始めた。
思念の実体化のことか… ザックはそう思うと、二人が持つ本を指差し、そこに書かれた一節を黙読させた。
(――思念の実体化は、地球磁場が強い場所でのみ行える能力である。)
読み終え、ここでは出来ないことを知り二人は仲良く落胆した。
「詳しい話は難しくなるから置いといて…」
言いながら、ザックは次に教える事を模索した。
――少し先の未来が見える…
この項目に目を付けるが、まだ二人には難しいだろうと考え、断念。さらなる思考を巡らした。
ザックが悩む中、二人は教科書の続きを急かした。
意外に楽しんでいるらしい。
促され、ザックはひとまず次のページをめくり、読み聞かせた。
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