■第一話「アップ・ザ・ロード」

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「もう少し大きくなったら出来るようになるよ。みんなが持ってる力だからね。」 落胆する子供の頭に優しく手を置き、ザックはにこやかに話し掛けた。 掌の温もりは、頭を通じ笑顔を生ませた。 一部始終を隣で見ていたもう一人の子供もまた、笑顔を作っていた。 だが、それはなにやら無邪気なそれとは違い傲慢さを秘めていた。 ふいに、自信に満ちた表情でその子供は立ち上がる。 そして、ザックと同じように指で文字を書くしぐさを始めた。 なぞった後には… 《シェイン》 《カイン》 見事、二人の名前が綴(つづ)られていた。 それを見、先ほど宥(なだ)められ機嫌を戻した子供が、「いじわる」と言い、再びふてくされた。 「いじわる」と言われ、得意げな顔をしているのはシェイン。それを悔しそうに見つめているのはカイン。二人は兄弟だった。 《しずかに》 ザックは、うるさく騒ぐ二人を指先で制止した。 文字が無言の圧力となって二人に伝わり、部屋は一斉に静まり返った。 「チャットリングは、俺みたいに色々な場所を行く人は、必ず覚えなきゃならないものだよ。覚えるにはどうすればいいか、解るよね?」 「勉強!」 姿勢をただし、敬礼。旧文明でいう軍隊の如き振る舞いである。 そしてカインは、兄よりも嬉々とし、「何か作り出してみて」とねだり始めた。 思念の実体化のことか… ザックはそう思うと、二人が持つ本を指差し、そこに書かれた一節を黙読させた。 (――思念の実体化は、地球磁場が強い場所でのみ行える能力である。) 読み終え、ここでは出来ないことを知り二人は仲良く落胆した。 「詳しい話は難しくなるから置いといて…」 言いながら、ザックは次に教える事を模索した。 ――少し先の未来が見える… この項目に目を付けるが、まだ二人には難しいだろうと考え、断念。さらなる思考を巡らした。 ザックが悩む中、二人は教科書の続きを急かした。 意外に楽しんでいるらしい。 促され、ザックはひとまず次のページをめくり、読み聞かせた。
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