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――その日は晴れ。空気が暖かく、いつになく気持ちのいい日だった。
いつも移動に使う「自転車」という器具を軽快に走らせ、ザックは山中を駆け巡っていた。
ここは何度か足を運んでいた場所である。
肩から小さなカバンをぶら下げ、坂を下っていく。
ふと見晴らしのいい場所を発見、自転車を止め深呼吸。
肩から下げたカバンからなにかを取り出し、顔の位置まで引き寄せる。
それは、乾いた短い音を出し、広い空間を響き渡らせた。
(――いい感じに撮れたな。)
眼前の広がる、澄んだ空と森の緑が、手にした物に映し出されていた。
それはかつて「カメラ」と呼ばれていた物。進化とともに消え去った旧世代の撮影機器である。
ザックは、時代錯誤とも言えるカメラを手に、美しい景色を撮る「写真家」だった。
山は自然の宝庫。いつ来ても、別の表情を覗かせてくれる。
上機嫌なザックは、どんどん山深くを進んで行った。
だが…
それがいけなかった。
澄み渡った青空が、みるみる内に暗くなり、ザックの心も暗くなる。
数時間後、辺りは闇に包まれ、山は「雪」に覆われた。
あっという間に降り積もる雪は、ザックを完全に孤立させた。
自転車を置き、歩いて帰ろとしたのだが、結果は――
―――――――――
――「あの時はさすがにもう駄目かと思いましたよ。」
力尽き、倒れたザックを、レリクが見つけ助けだした…という流れなわけだ。
この世界に生きる住人にとって必須といえる行為、「天気予知」をおろそかにしたが故の事故…
本来ならば馬鹿にされても文句は言えない事だった。
地球は、宇宙にある「フォトンベルト」という高エネルギーの光の帯に包まれている。当然それは地球の気象を大きく変化させた。
空気中がフォトン(光子)で満たされた地球は常に光に、暖かさに包まれている。
そんな環境では寒さは無縁。だがまれに、空気中のフォトンが消滅し「夜」という現象が起きることがある。
夜は温度を低下させ、雪を降らすこともしばしば。そして夜はフォトンをエネルギーとしている生命にとっても過酷なもの。ザックはその過酷な環境に巻き込まれたのだった。
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