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「まったく、言い訳も出来ない愚行でした…まぁおかげで雪の写真が撮れましたけどね。」
言って、ザックは苦笑した。
ふと、視線をレリクから横にある窓へと向ける。今なお降り続く雪が、静寂の中を跋扈(ばっこ)していた。
「さっき気象予知の人に聞いてみたんですが、雪はまだまだ降るそうです。でも夜はそろそろ明けるみたいですよ。」
レリクの話を聞き、ザックの頭に何かがひらめく。
夜が明ければ危険は減少する。数時間程度であれば、積もった雪も溶けることは無い。
画策することはただ一つ。 夜明け直後の安全な時に、山の雪景色を収める… 写真家故の好奇心だった。
カメラのレンズが鋭く輝く。
一言礼をいい、身支度を始めるザックの瞳も、カメラに負けじと輝いていた――
―――――――――
――丸一日近く続いた夜が開け、鳥達が朝を唄い出す。
外に出て、まず始めにすることは深呼吸。
自然の空気を大きく吸い込みながら、周りの景色を見渡した。
見事な銀世界は、雪の冷たさを忘れさせるほど美しかった。
白を踏むと、土の茶となり、足跡になる。
ザックは、それを無数に作り進んでいった。
あまり遠くには行けない。
目標を、近くの森にし、いざ行かん。
だがその前に…
「子供はついて来ちゃ危ないぞ。」
ザックの一声に驚いて、後方の木の陰から恐る恐るシェイン達が現れた。
「…雪道くらい平気だよ。僕たち"クリスタル"だし。」
カインは得意げに話した。
さしずめ、身支度をしている間に勉強の続きをしたのだろう。
「ザックもクリスタルでしょ?」
言いながら、ザックの首にぶら下がったカメラを覗き込む。
「イチガンレフカメラってやつだよね!」
よほど珍しいのだろう。カメラを見る目はレンズ以上に輝いている。
その光る瞳を見ながら、ザックは頭を悩ませた。
「クリスタル」とはいえ、二人はまだ子供。連れて行くのが不安だった。
――クリスタルは、アセンションによって肉体を飛躍的に進化させた人類である。
そのため、その身体は疲れを知らない。
だが、それでもやはり子供は心配だった。
「もう夜は来ないから大丈夫」と、二人は仕切りに訴える。
ザックはついに説き伏せられ、渋々ながら二人を連れて行くことにした。
そしていよいよ、森の中へと足を踏み入れる――
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